ビートルズのマニアの世界をご紹介しよう。私もビートルズマニアだと思うが、上には上がいるもので、もうぜんぜん敵わないマニアたちがこの世界にはいるのだ。
私が尊敬しているビートルズ研究家にマーク・ルイソンという人がいる。この人は本当にすごい。まずこの人、ジョン・レノンとポール・マッカートニーが初めて出会った日を特定したことで有名になったというのだからなんともはや(笑)。二人が出会ったのは、ある教会のバザーでジョン・レノンが自分のバンドでコンサートをしたときだというのがそれまで分かっていたことだったが、それがいつだったかは長い間、知られていなかった。マーク・ルイソンは、その地域で発行されていた小さなチラシみたいな新聞を丹念に調べ上げることを思いつき、その結果、該当する日が1957年7月6日しかないことを発見した。それ以来、あらゆる資料には、この日が二人が出会った日として公式に採用されるようになった。
彼の書いた本、『レコーディング・セッション』がこれまたすごい。マーク・ルイソンの情熱はビートルズ関係者にも認められており、彼は、残された何百時間というすべての音源を聞くことの許されたビートルズ関係者以外で唯一の人物である。その立場を利用して書いたのがこの本だ。
なんとこの本には、ビートルズがスタジオに入って録音したすべての日の録音内容が克明に記録されている。ただ詳しいだけの記録なら、実はそう面白くもない。ところがこのマーク・ルイソン、抜群に面白く書く才能があるのだ。だから、こんな気が狂ったように詳細なレコーディング記録集でも、とても面白いのだ。しかも驚くような新しい発見に満ちている。名作『ラバー・ソウル』の題名の由来は長い間メンバーも語らず謎とされていたが、これを解明した下りもこの本に記されている。ある曲の演奏の後に、ポール・マッカートニーが他のメンバーに向かって「黒人ミュージシャンがローリングストーンズのミックジャガーのことを偽物のソウルという意味でプラスティック・ソウルとバカにしている」と話していることを発見したのだ。これをもじって『ラバー・ソウル』としたという発見が、これまた彼の仕事なのだ。
まったく素晴らしい、マニア必携の一冊だ。
これはスタジオでのレコーディングだけに関した本だが、マーク・ルイソンは、この後、ライブやその他の活動を含めた『ビートルズ全記録』という上下2冊の大著も出している(笑)。まったくとんでもない奴である。