年別アーカイブ: 2013

コーチという仕事

真面目な話も書こう。ミッシェルは「コーチとは本当に難しい仕事だ」と語った。人にはどんな仕事であれコーチが必要だが、それはコーチという仕事にも言える。ところがコーチのコーチはいない。どうしてよいかわからなくて誰かに助言をしてほしくても、誰も助言をしてくれる者はいない、それがとても孤独で辛いと語った。これは「自分のやり方が正しい」と自画自賛しているコーチにはわからないだろう。こういう意識があるからこそミッシェル・ブロンデルは優れた指導者たりうるのだと思う。

フランス人と日本人

ミッシェルは日本が大好きなのだが、特に好きなところが自由なところだという。ちょうど店内にふざけたような奇妙な帽子を被っていた客がいたので、そちらを指して「日本では他人と違っても誰も気にしないし気にもされない。フランスではまわりと同じような格好をしないと白い目で見られる」というようなことを言った。これには驚いた。これは我々が通常思っていることと正反対ではないか。

「フランス人の方が個性を重んじて他人に干渉しないと日本では思われてる」と言うと、フランス人がそう見えるのはそのように装っているからで、内心はおかしな格好をしたヤツは疎まれるのだと語った。つまりこうだ。どんな社会だろうが人間は奇妙な人間には好感を抱かずむしろ敵対心を抱く。仲間ではない信号を発しているのだから考えてみれば当然だろう。ところが理性では他人の自由は認めなくてはならない。だから表向きは奇妙な格好を許容する。このようなことで、お互いに他国が自由なように見えるのだ。「日本でも変わった格好を認めるのは表向きで、内心はバカめって思ってる。だから多分フランス人と同じだよ」と教えてやった。

ガシアンのこと

ミッシェルと今野さんによると、ガシアンというのは本当に希にみるナイスガイなのだそうだ。ミッシェルいわく、試合で負けて自分に「アイアムソーリー」と謝ってきたのはガシアンだけだったそうだ。卓球雑誌ではだいたいどんな選手でも気さくだのナイスガイだとの書くので(まさか「とんだゲス野郎だった」などと書くわけにもいくまいから当然だが)、私はそういうのはまったく信用していないのだが、どうもガシアンは特別で、本当に本当に紳士な男なのだそうだ。そんなに紳士な男なら、昨年ドルトムントですれ違ったときに一発失礼なことでもやってみるのだった。

なお、良い話の後で恐縮だが、ミッシェルが「卓球もパンクロックのようにプレーすべきだ」と言ったので「それはどういう意味だ?」と聞くと「わからない」と答えた(やっぱりか・・・)。パンクロックをやるように一定のリズムで激しく上下しながら卓球をしたら、タイミングはあわないし目線はズレるしでかなり入らないことは間違いないだろう。

ミッシェル・ブロンデルとの出会い

無事に全日本での仕事も終わり、自宅に帰ってきた。全日本では思わぬ出会いがあった。二日目の夜に、今野編集長の知人でフランスのナショナルコーチであるミッシェル・ブロンデルと夕食を供にしたのだ。その焼肉屋に私だけちょっと遅れて行ったのだが、初対面のミッシェルはなんだか笑いっぱなしでロレツが回らないような話し方なので「それは酔っているのかもともとなのか」と聞くと(失礼なことを聞いたものだ)「酔ってない、もともとだ」と言う。さすがにコーチをするときはこうではないらしいがプライベートではいつもこうなのだという。

今野さんとどういう関係なのか聞くと、ミッシェルは荻村伊智朗にあこがれて80年代に青卓会にコーチングの勉強をしに来日し、今野さんとは荻村に誉められたりいじめられたりの苦楽を供にした仲であり、今野さんを実の兄のように思っていると語った。卓球王国の誌面ではフランスのコーチとしていたって冷静に紹介をされているが、完全に「一味」「その筋の者」なのであった。

ミッシェルは荻村が亡くなる直前、パリを訪れた荻村とジャズバーで朝の5時まで語らい、荻村が話しっぱなしでジャズを聴くヒマもなかったという、感激のしどころがよくわからないがしかし魅力的な想い出を語ってくれた。そこから音楽の話になり、わかったことは、ミッシェルはパンクロックの大ファンで、中でもクラッシュの大ファンであるということだ。私もクラッシュの大ファンなので一気に盛り上がり、焼肉屋なのに二人でLondon’s Burnningを歌うに至った。歳が私より二つ下の47歳だということも音楽の好みが近い原因だろう。可笑しかったのは、ミッシェルは「荻村はパンクだ」と言ったことだ。「荻村はパンクなんか嫌いだったはずだ」と言うと、精神がパンクなのだと言う。荻村が1954年にロンドンでイギリス人のイジメを受けながらそれを跳ね返して優勝したことをまるで「卓球・勉強・卓球」を読んだように詳しく知っていて、それがパンクだと言うのだ。なるほどと思って話を聞いていると、水谷もパンク、丹羽もパンク、今野さんもパンクだと言うではないか。どうやらこの人、自分が好きなものはすべてパンクであることにしているようなのだ。ミッシェルは80年代に相撲を題材としたドキュメンタリー映像作品を作っており、テレビで放映されたことがあるという。「相撲もパンクだ」と言うので、どこがパンクなのか聞くと、出羽海部屋を5週間取材したときに、常の山という力士が、日中激しい稽古をした後、毎晩のように酒を飲み歩き、ろくに寝ないで毎朝4時から稽古をするのだそうで「これこそがパンクだ」という。そういうことか・・・。映画監督の小津安二郎もヴィム・ヴェンダースもパンクだと言うのだから完全にメチャクチャである。注文をしたワインがグラスにちょっとしか入っていなかったので下手な日本語で「ちょっとこれ少ないんでしょうー」といちゃもんをつけたのも当然パンクなのだろうやっぱり。

ともかく、卓球界でこれほどパンクが好きな人に出会ったことは、高校時代のチームメート以外には記憶にないのでとても嬉しかった。今から世界選手権パリ大会が楽しみだ。卓球そっちのけでパンク話で盛り上がりそうである。

全日本を取材

今日から会社を休んで全日本に来ている。豚野郎の話ばかり書いているわけではないのだ。本来ならば速報でもしたいところだが、それは編集部にまかせるとして、今回はビデオ撮影のお手伝いという名目の参加だ。決勝のテレビ放送で背景に映るかもしれない。

本革

新幹線のカタログ紹介は「面白い」という人がいたかと思えば「あれが一番つまらないので止めて欲しい」と言う人もいて、いちいち聞いていられないのでとりあえず書くことにする。

革製品のページで「牛革」とか「羊革」とか「馬革」とかが載っていたのだが、その中に「本革」というのがあったのが目を引いた。他のものは動物の種類を書いてあるのにこれだけが本物の革だというのだから不思議ではないか(ここまで田村に話すと「人間の皮ってことか」と不安気な顔で言ったことを付け加えておく。なんで新幹線の通販がナチスの真似事をせにゃならんのだ。さすが変わり者の名をほしいままにしているだけある)。

それで製品説明をよく見ると、そこには「豚革」と書いていたのであった。どうしても「豚」とは書きたくなかったものと見える。たしかに、豚とえいば「豚箱」とか「豚野郎」とかあまり良い印象はないのだから仕方がない。死んで革になってまで差別されるとは豚の人権はどうなっているのだろうか。ねえかそんなもん。全日本が始まったというのに、よりによって豚野郎の話というのもなんだが。

『卓球ラウンジNOA』視察

昨年、仙台市内に新たに卓球場ができたのを聞いていたので、大雪の中視察に行ってきた。視察といえば聞こえはいいが、要するにひやかしである。しかし、今日の予定を聞いてみると5時から6時までの1時間だけ空いていてあとは教室やらフリーやらで埋まっているという。素晴らしいことだ。

台は4台もあり、二人の生徒さんが指導をされているところだった。卓球場が繁盛をしているのを見るだけで私は楽しいのだ。

体罰について

どこかの高校バスケ部顧問の体罰が問題になっている。卓球界でも体罰をする学校があるという話はチラホラ聞くし、親が子供を叩くなどというのは当たり前のようによくある。

テレビでは「教育基本法で体罰が禁止されている」と言うが、それは時速40キロの制限速度のようなもので、そもそも守っている人の方が少ないルールである。問題は体罰の有無ではなくてその程度にあることは明らかだ。平手で30発も叩くのはやりすぎだし、拳で殴るなどは1回でもダメだろう。しかしその許容程度を客観的に決められないから安全策として「体罰はダメ」となっているにすぎない。

体罰が教育に効果があるかどうかはわからない。そもそも何を持って教育されたと判断するのかもわからない。仮に教育の効果がないとしても、私はある程度の体罰なら容認する。現場では暴力で生徒の行動を制限する必要がある場合もあると思うし、先生も人間なのだから腹が立って手を出したくなるような生徒もいるだろうからだ。

なお、荻村伊智朗は体罰は絶対にしなかったそうだ。体罰はしなかったが、言葉の暴力が凄まじく「これなら叩かれた方がマシだ」と思うほどの全人格否定を延々とされるのだという。その荻村が『卓球クリニック』(1990年ヤマト卓球刊)という本で、指導者の体罰が嫌だという読者の質問に対して「ネチネチといじめまわされるよりは、スカッとなぐられたほうがいいというふうに考える場合もあるでしょう。また、暗い顔をしてブツブツと口の中で生徒の悪口ばかり言っている雰囲気よりも、スカッとなぐってあとはニコニコというほうが思い切ってやれるかもしれません。」(P196)と答えているのだから可笑しい。

自分自身のことはどう評価していたのか聞いてみたかった。

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