金曜の夜から土曜にかけて、日本卓球協会のレーティングの普及活動のため、青森に行ってきた(推進チームのメンバーなのだ)。青森にはずっと前に車で浅虫温泉というところに行ったことがあるだけで、新幹線で行くのは初めてだった。最寄の駅から青森駅まで3時間弱もかかり、同じ東北なのにこんなに時間がかかるのかと思った。
ホテルは「ホテルアベスト青森」というところで、一泊3700円と異様に安かった。カプセルホテルでもない普通のホテルだ。他のホテルの値段を見ると、普通に6000円とか7000円なので、青森の相場が安いということではなく、そのホテルだけが異様に安いのだ。行ってみると、多少古いが、なに不自由のない立派なホテルだった。ただ、旧名である「ホテルアラスカ」という看板がデカデカとあり、どこがホテルアベストなのかわからず、ありもしない「ホテルアラスカの間の入り口」を探してしまったのが困ったくらいだ。
夕飯はホテルの人から紹介された近くの居酒屋にひとりで行った。ホテルからの紹介券をもっていくと10%引きだという。
店名は書かないでおくが、なかなか味わい深い店だった。お勧めは何かと聞くと、ホタテ焼きだという。青森ならホタテが有名だと同僚から聞いていた通りだ。ここの女将さんが「生きたままのホタテを出す」と強調したのが可笑しかった。注文をすると、その生きたホタテとやらが貝殻の上に乗って出てきて、火をつけられた。生きているわりにはピクリとも動かないので「動きませんね」と言うとその女将さん、「まだ熱いのに気がついていないんですよ。今に動きますよ」と言った。ホタテが何かに気がつくという発想が面白く笑いを堪えきれない。
しばらく沸騰するまで見ていたが、ついにホタテが動くことはなかった。「動きませんね」と言うと、「ホタテから汁が出てきたでしょう。これが生きていた証拠なんです。熱いから動いて汁を出したんです」と言う。動くというのは初めからそういう意味だったのか、本当は死んでいたのか、確かめるのも気まずいので、それ以上は追求しなかった。
食べてみると美味しかったのでよかったのだが、それにしても本当は死んでいたのだろうか生きていたのだろうか。動かないのは最後までホタテが「気づかなかった」からなのだろうか。古代から貝殻を山と積み上げられるほど人間にいとも簡単に獲られて食われ続けてきた貝類というものの、自己犠牲と間抜けの生態に思いを馳せた青森の夜であった。