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世界ジュニア

 第10回世界ジュニア選手権ハイデラバード大会は、中国の全7種目制覇で幕を閉じた。

 個人戦5種目の決勝はすべて中国勢同士の対戦。エジプトやインド、ブラジルやアルゼンチンなどが力をつけ、大会のレベル全体が底上げされる一方で、トップクラスまで伸びてきそうな選手は少なかった。中国と日本以外で目立っていたのは、男子ではチャイニーズタイペイの李佳陞、女子ではP.ゾルヤ(ドイツ)や杜凱栞(香港)くらいか。男子のフランスもゴーズィをはじめ粒揃いなのだが、全体的に攻めが遅く、個性も際立ったものではない。
 金東寅(韓国)、梁夏銀(韓国)、アリエル・シン(アメリカ)、ノスコワ(ロシア)などU-18の有力選手たちが大会に出場しなかったのも惜しまれる。アメリカ女子はアリエルが出場していれば、今大会ベスト8のリリー・チャンとの両輪で、ベスト4入りも十分狙えただろう。

 それにしても、樊振東の才能。渋い面構えとちょっとゆるんだお腹は、「本当に15歳か?(来月で16歳)」と疑いたくなるが、その強さだけは疑いようがない。見ていて惚れ惚れするようなプレーだった。

 世界ジュニア選手権ハイデラバード大会の模様は、1月21日発売の卓球王国2013年3月号に掲載。昼食ではインド人に紛れ、右手でカレーを頬張った取材班が、ほんのりカレーの香る右手で熱い原稿を書き上げます。インドの皆サンは本当に親切でした。サンキュー、インディア。

 香港経由、成田行きのフライトは午前3時30分、ハイデラバード空港発。まもなく出発の時刻です。それでは本誌の世界ジュニア特集にご期待ください!
●男子シングルス決勝
樊振東(中国) −10、−7、8、6、8、4 林高遠(中国)

 第10回世界ジュニア選手権の最終試合、男子シングルス決勝の主役になったのはやはりこの男だった。男子団体で中国男子優勝の原動力となった樊振東(ファン・ジェンドン)。3大会連続の決勝進出で、準決勝の徐晨皓戦でも「今年こそ優勝を」の気負いが見えた先輩・林高遠を、ゲームカウント0−2からの逆転で下した。

 決勝の序盤は林高遠にバックサイドを重点的に攻められ、決勝を戦う硬さもあって両ハンドのミスが多かった樊振東。しかし、第3ゲーム中盤からエンジンがかかりはじめ、第4ゲームからエンジン全開。ショートスイングのバックドライブからの回り込みパワードライブのコンビネーション、さらに中陣での安定したバックでのしのぎからのバックドライブでの逆襲と、やりたい放題のプレーで会場を沸かせた。台上バックドライブの威力も素晴らしいものがある。

 林高遠はフォア前までカバーする台上バックフリックで樊振東の足を止め、中陣から放つ弧線の低いドライブでカウンターのミスを誘っていたが、当たりがついた樊振東はもう止められない。林は第5ゲーム6−8のリードを守り切れずに落とすと、第6ゲームはやや集中力を欠いたか、攻撃のミスが連続して一気にスコアを離された。

 数年後、この世界ジュニア選手権ハイデラバード大会は、第10回の記念大会としてではなく、樊振東が華々しくデビューを飾った大会として語られるかもしれない。中国の上位独占は悔しい結果だが、樊振東の才能のきらめきは、その悔しさを忘れさせてしまう。今後もこの男からは目が離せない。

下写真は左から樊振東のパワードライブ、3大会連続の2位にベンチで肩を落とす林高遠、表彰での樊振東
●女子シングルス決勝
朱雨玲(中国) 6、5、9、8 顧玉ティン(中国)

 女子シングルスは朱雨玲が優勝。顧玉ティンの両ハンド強打を前・中陣で完璧に受け止め、上から叩くような反撃のバックドライブを決めた。中国の国家1軍チームの代表として、すでにワールドツアーも数大会経験している朱雨玲。これは世界ジュニアなのだが、まるで一般選手とジュニアというくらいの貫禄の差があった。顧玉ティンは何本打っても返ってくる壁のような朱の守備に対し、中盤からは焦りからかミスが連続した。

 世界ジュニアのシングルスで2回優勝したのは、この朱雨玲が初めて。優勝を決めても観客席にわずかに手を振っただけで、素早く荷物をまとめ、足早にコートを去っていった。ジュニアで注目されるようになった頃から、「五輪での金メダル獲得が目標」と公言していた彼女。前回優勝の陳夢のいない世界ジュニアはあくまで通過点、いや通過点とすら認識していなかったかもしれない。その後ろ姿は「優勝して当たり前でしょ?」と言っているような気がした。表彰台でも顔色ひとつ変えず、優勝杯を掲げた。
●女子ダブルス決勝
顧玉ティン/朱雨玲(中国) −8、5、−5、−7、6、9、4 顧若辰/劉高陽(中国)

●男子ダブルス決勝
林高遠/徐晨皓(中国) 8、9、5、6 范勝鵬/樊振東(中国)

 女子ダブルス優勝は顧玉ティン/朱雨玲。決勝を戦った2組のペアはともに右利きと左利きのシェークドライブ型同士のコンビだが、強打者でラリーの中で積極的に決定打を狙う顧玉ティンと、台上から巧みにコースを突いてチャンスメイクをする劉高陽ではタイプが異なる。試合の中盤までは役割分担がしっかりしていた顧若辰/劉高陽が優勝ペースだったが、ここから朱雨玲の打球点の高いバックドライブと、顧玉ティンの強烈なフォアドライブがかみ合い出し、逆転勝ち。女子シングルス決勝を控えたふたりに、優勝を決めた後もほとんど笑顔はなかった。

 男子ダブルス決勝は、林高遠/徐晨皓が第2ゲームを大逆転で取ってから、ワンサイドゲームの展開に。最後は范勝鵬/樊振東がロビングを上げていた。林高遠の両ハンドでの台上強打に、徐晨皓の前・中陣での安定した攻守がかみ合ったナイスコンビ。世界ジュニア常連の林高遠は意外にもこれが初の個人戦のタイトルだ。
●混合ダブルス決勝
樊振東/劉高陽(中国) -4、-4、10、-4、9、11、9 林高遠/顧若辰(中国)

 混合ダブルス決勝は中国勢同士の対戦。最初は樊振東/劉高陽(写真奥)が気の抜けたようなプレーで、「樊は男子シングルス決勝に向けて、体力を温存しているのか?」と思わせたくらいだったが、徐々に調子を上げていった。途中から劉高陽が徹底してつなぎに回り、樊振東が両ハンドでグイグイ攻めた。劉高陽も顧若辰も、中陣から男子選手のボールをよく返していた。

 試合後、ITTFからインタビューを申し込まれ、「ちょっと待って!」と大急ぎで駈けだした樊振東。その行き先はトイレ。決勝の間、ずっと我慢していたのだろうか……、回りにいた人たちも思わず笑顔でした(写真下)。
●男子シングルス準決勝
樊振東(中国) 5、6、6、−4、4 范勝鵬(中国)
林高遠(中国) 4、12、−7、7、−7、−5、6 徐晨皓(中国)

 范勝鵬をノックアウトして、世界ジュニア初出場で決勝進出を果たした樊振東(写真左)。小さいバックスイングで、どこからでもパワーボールを打ち込めるボディバランスと体幹の強さ。安定したバックブロックから、ショートスイングで放つ強烈なバックドライブ。軽く握られたグリップでの、柔らかなタッチの台上処理。どれをとっても超A級の素材。この選手に「末恐ろしい」という言葉は似合わないかもしれない。すでに恐ろしいほどのパワーとボールセンスを見せつけているからだ。これほどパワーとボールセンスがひとつに結実しているプレーヤーは、あまり見たことがない。

 もうひとりのファイナリストは、3大会連続での決勝進出となる林高遠。しかし、優勝への気負いからか、そのプレーはベストには遠い。決勝で開き直り、樊振東に先輩の意地を見せられるのか。

 写真右は林高遠にゲームオールまで食い下がった徐晨皓(シュ・チェンハオ)。林のフォアドライブと中陣でバックドライブで引き合い、ゲーム中盤からは林のボールを見切ってカウンタードライブも随所に決めた。ラリー戦でのアイデアが豊富で、前陣でもスイングの速いフォアドライブが打てるようになれば面白い存在。妙に人なつっこい雰囲気があり、親近感の沸く選手。
●女子シングルス準決勝
朱雨玲(中国) 10、8、7、7 P.ゾルヤ(ドイツ)
顧玉ティン(中国) 9、8、−9、9、5 顧若辰(中国)

 ドイツのP.ゾルヤ(写真上)は朱雨玲に敗れ、銅メダル。第1ゲームに10−8でゲームポイントを奪ったが、ここを生かせず。朱は決勝までギアを入れる気がないのか、フォアドライブを強振するシーンはほとんどなく、しつこいラリーで常に相手より一本多く返していた。

 顧玉ティン(写真下)と顧若辰の「グー・グー」対決は、競り合いながらも顧玉ティンに軍配。バックハンドでの攻撃力にまさる顧玉ティンが台からやや距離を取り、両ハンドのパワーボールを打ち込んだ。顧若辰も「サービスの間合いが長すぎる」と審判にイエローカードを出されるほど、この試合に賭ける姿勢が感じられたが、プレーのスケールではやはり顧玉ティンが上回った。
★大会最終日の試合予定

●女子シングルス準決勝
朱雨玲(中国) vs. P.ゾルヤ(ドイツ)
顧若辰(中国) vs. 顧玉ティン(中国)

●男子シングルス準決勝
樊振東(中国) vs. 范勝鵬(中国)
徐晨皓(中国) vs. 林高遠(中国)

●混合ダブルス決勝
林高遠/顧若辰(中国) vs. 樊振東/劉高陽(中国)

●女子ダブルス決勝
顧玉ティン/朱雨玲(中国) vs. 顧若辰/劉高陽(中国)

●男子ダブルス決勝
范勝鵬/樊振東(中国) vs. 林高遠/徐晨皓(中国)

●女子シングルス決勝&男子シングルス決勝

 ハイデラバードに到着してすでに8日、大会もいよいよ最終日を迎えた。ご覧のように女子シングルスのP.ゾルヤを除けば、中国が上位を独占している。地元の観衆にしてみれば興味が薄れるだろうが、同士討ちとはいえ、中国も最近は手抜きの試合はほとんどない。今大会、崩れそうで崩れなかった中国。その強さの理由を少しでも知りたい。

 そして今、日本の卓球界を騒がせている「補助剤問題」。大会初日から、「イイ音鳴らしてるな」という選手はいくらでもいた。しかし、実際にラケットコントロールで問題が生じなければ、すべては疑念でしかない。
 大胆にも、試合前にベンチでラバーを貼り替えている選手もいた。そのラバーはかなり反っているように見え、グイグイ押しつけながら貼っていた。パワーが発展途上のジュニアの年代だと、補助剤の影響はより大きくなるはずだ。
 インドの皆サンはとってもカメラが好き。昨日の朝は会場に着くなり、高校生くらいのスタッフの女の子がプレスシートに飛んできて、どんなカメラやレンズを使っているのか、熱心に聞いていった。
 3日ほど前にも、カメラを持ったおじいちゃんにシャッタースピードや絞りについて聞かれたが、その手元を見てみるとなんと超旧式の、フィルムのカメラだった。「うーん、それだとプレーしている写真を撮るのは難しいと思うよ」というと、自分でもわかっているのかちょっと悲しそうだった。ゴメンネ、おじいちゃん。

 そして閉口するのが、「写真を撮ってくれよ」というご依頼。「ボクはフォトグラファーじゃなくてエディターで…」云々と言ってみても、「でもお前カメラ持ってるじゃないか」と。地元の新聞社のボスに目をつけられ、「テロー(太朗)」と名前まで覚えられてしまった。「そんなちゃちいレンズじゃなくて、あの長い立派なレンズで撮ってくれ」。確かに望遠の長いレンズのほうが立派に見えますけどね…。あなたがたの集合はコレでいいの!

 極めつけは昨日プレスシートの後ろに座っていた太めのお兄ちゃん。日本選手の試合が続いて忙しい時に、近寄ってきて「ルーマニアの女子ダブルスの写真をくれないか?」と言い出すではありませんか。
 ええい、このスケベ男め! どうせスッチの写真が欲しいんだろうと思って、「どっちの選手が好きなの?」とあえて聞いてやったら「チオバヌ!チオバヌ!」との返答。あらそう、インドではそちらのほうがお好みなのね…。単に個人の趣味か。

 お仕事の邪魔をしたので、ウェブに載せてあげましょう。三人の左端がチオバヌファン、他のふたりの方はごめんなさいね。ちなみに写真下の右の選手がチオバヌ、左がスッチ。
 男子シングルス準々決勝、中国の右ペンドライブ型・范勝鵬と大ラリー戦を展開したフランスのシモン・ゴーズィ。ともに後陣に下がってもしのげる守備力があり、ロビング対スマッシュのラリーも何本も見られた。
 「アレ!シモン!」というフランスの応援団の声援に乗せられ、地元の観衆の声援もゴーズィに集中。范をあと一歩まで追い詰めたが、最終ゲームは2−3からネットインを食らい、2−6、4−9とリードを広げられた。
 試合に敗れ、落胆の表情でベンチへ戻ってきたゴーズィ。范のベンチを撮影していたら、突然大きな物音が。ゴーズィがラケットを叩きつけたのだ。さらにそのラケットを拾い上げ、膝で「ベキッ!」。

 心の中で「ギャーッ!」と叫んだ取材班。一昨日に「ゴーズィの逡巡」で、ラケットを大事にしている様子を記事にしたばかりでしたが…。自身初のベスト4入りが目の前だっただけに、相当に悔しかったのだろう。