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中国リポート

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●河北省出身の主な男子選手
石家荘市 劉イ(火×4)・王臻(ユージーン・ワン/カナダ)
唐山市 郗恩庭・李景光・梁靖崑
保定市 王志良・王浩・崔慶磊・范勝鵬
秦皇島市 程靖チィ
辛集市 宋海偉(吉田海偉/日本)・高寧(ガオ・ニン/シンガポール)

 大変長らくのご無沙汰をしてしまいました、中国卓球人国記。今回は河北省の男子編。首都・北京市と天津市、ふたつの直轄市を取り囲むように位置している。中国の卓球の歴史を語るうえでは、決して外せない省のひとつだ。

 1960年代から70年代にかけて、河北省出身の男子選手は北京市や上海市の選手とともに、中国チームの主力を担った。最初に世界に飛び出したのは右シェークカット型の王志良。1963年の世界選手権プラハ大会で、右ペンカット型の張燮林とのカットペアで優勝。男子ダブルスで中国初のチャンピオンとなった名選手だ。今年の9月15日に80歳で逝去している。

 続いて、中国が3大会ぶりに世界選手権に出場した1971年名古屋大会では、郗恩庭と李景光が代表入りを果たす。郗恩庭はこの名古屋大会で男子シングルス3位に入った後、73年サラエボ大会の前に徐寅生のアドバイスによって裏ソフトに転向。強烈な変化サービスとプッシュ、3球目フォアドライブを武器に世界チャンピオンとなった。サラエボ大会・男子シングルス決勝のヨハンソン(スウェーデン)戦では、最終ゲームの15ー15からネットイン1本とエッジ3本をねじ込んだという逸話も残る。昨年(2019年)の10月27日、胸部大動脈瘤の破裂により、惜しまれながら73歳で逝去した。

 一方、李景光は団体戦で活躍。特に日本チームの前に鬼神のごとく立ちはだかった、堂々たる体躯の左ペン表ソフト攻守型。71年名古屋大会の男子団体決勝では、河野満、長谷川信彦、伊藤繁雄の3人を連破し、チームは5ー2で勝利。3大会ぶりの男子団体優勝の立役者となった。73年サラエボ大会の男子団体決勝リーグでも日本と対戦し、4ー4ラストで高島規郎と対戦。最終ゲーム20ー14から20ー19まで挽回されながらも、高島が倒れ込みながら打った勝負を懸けたスマッシュをブロックで返球し、観客を熱狂させた。
 
 文化大革命での2大会の欠場の後、世代交代を迎えた中国男子の「守護神」として活躍した李景光。しかし、現役引退後は20年以上も統合失調症に苦しみ、生涯独身だった彼の面倒を見たのは姉ひとりだけ。2000年6月に北京市内で投身自殺によって亡くなるという、悲劇的な最期を迎えている。

 王志良・郗恩庭・李景光らによる「第一次黄金期」を迎えた後、低迷期に入った河北省男子。次に世界選手権の代表メンバーに入ったのはカットの王浩(ワン・ハオ)だ。1991年4月の世界選手権千葉大会で史上最低の男子団体7位に沈んだ中国が、新たな指揮官・蔡振華を迎えて臨んだ91年11月のチームワールドカップ。蔡振華が呼び寄せた秘密兵器は、故障の連続で国家チームを離れ、ドイツ・ブンデスリーガでプレーしていた王浩だった。そして決勝のスウェーデン戦では、馬文革・王涛・王浩の3人が出場して3ー0で完勝。中国復活への布石となった。2年後の93年世界選手権イエテボリ大会では、決勝のスウェーデン戦で2点を献上してリベンジを喫してしまうのだが……。ちなみに王皓と発音が同じなので、年齢が上にも関わらず中国では「王皓じゃないほうの王浩」と呼ばれたりもする。

 そして今、河北省出身の選手として初のシングルスの世界チャンピオンを狙うのは、世界ランキング8位の梁靖崑だ。19年世界選手権個人戦では、準々決勝で丹羽孝希との熱戦を4ー3で制し、初のメダル獲得。逆三角形の体躯から放つ両ハンドドライブはパワフルで、ジュニア時代のような精神面の不安定さもなくなってきた。馬龍・許シンの引退後、樊振東や林高遠、王楚欽とともに国家チームの主力を担うことになる。

 最後に、河北省出身の男子選手は、選手やコーチとして海を渡った人物も少なくない。2004・05年度全日本選手権2連覇の吉田海偉(中国名:宋海偉)は辛集市の出身。ペン表で卓球を始めたが、89年世界選手権・男子団体決勝で中国がスウェーデンに完敗したのを契機にペン裏ソフトドライブ型に変身。金擇洙(韓国)に憧れ、フットワークを生かしたドライブ連打のスタイルを築いた。そして卓球王国本誌で『脱・自滅のフットワーク』を監修している、「体の使い方のスペシャリスト」中澤鋭さん(中国名:王鋭)も河北省出身。省チーム時代の練習はまだフォアハンド重視、フットワーク重視。「400mのトラックを午前10キロ、午後10キロ走ることもあった。疲れ果てて、晩ごはんを食べる前に寝てしまったこともあります」というほど、ハードに鍛えられたそうだ。

●河北省男子明星隊 MEN’S HEBEI ALL STARS
先鋒 王浩
次鋒 王志良
中堅 梁靖崑
副将 李景光 
大将 郗恩庭

・先鋒と次鋒に鉄壁のカットを揃え、中堅はシェークドライブ型の梁靖崑。副将と大将には、左ペン表の李景光と右ペン裏の郗恩庭という「ツインタワー」を揃えた大型チーム。戦型もバリエーションに富んでおり、他の省と比べても決して見劣りしない戦力を備えている。オールスターズには入らなかったが、個人的にはセンス抜群のぽっちゃりシェークドライブ、カナダの王臻も好きな選手だ。
  • 張燮林とのカットペアで優勝した王志良

  • 73年世界チャンピオンの郗恩庭。写真は2018年4月の日中交流大会で来日した際のもの

  • 長身のカット型・王浩はドイツのブンデスリーガでプレー

  • 豪腕・梁靖崑は郗恩庭に続き、河北省が生んだふたり目の世界王者になれるか

  • 39歳になった今も現役バリバリでプレーする吉田海偉