<卓球王国2010年12月号より>
東京五輪を目前に控えた水谷隼の2010年、今から11年前のインタビューを紹介しよう。
当時、全日本4連覇を成し遂げ、れっきとした日本の王者だが、
このインタビューでは彼自身の内面を一部さらけ出している.
そして切り出した彼の言葉。「自分の結果で卓球界を変えていくチャンスが生まれる」。
それから6年後のリオ五輪でその言葉を体現した。
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孤高のトップランナー
MIZUTANI, Jun
21歳にしてすでに全日本選手権4連覇の王者。
世界ランキング10位という
世界のトップランナーとしての地位。
頂点近くの空気の薄い場所での重圧、
そして誰もわからない水谷隼の心情。
彼はどこへ向かうのか。
世界の頂点へ向かう時、
彼自身が埋めるべきものは何なのか。
インタビュー=今野昇
写真=高橋和幸
気になっていた。彼がチャンピオンだからというわけではない。
全日本選手権直後の水谷隼のインタビューから半年以上が経っていた。世界選手権などで話すことはあっても、それはあいさつ程度だ。モスクワ大会での活躍とその後の世界ランキングの上昇、そして辛酸をなめた中国の超級リーグ。21歳の王者の声に耳を傾けないわけにはいかない。
特に、モスクワの世界選手権でボルに勝つなど、世界のトップクラスとしての実力を証明した後、期待を込めて迎えられた超級リーグで彼は思うように勝てなかった。それだけではなく、水谷の意図に反して、地元マスコミで「水谷バッシング」が始まり、それはインターネットを通して中国の卓球ファンの知るところとなった。
ところが、それは事実と違う部分も流布し、水谷にとってはほろ苦い経験としてすり込まれた。いろいろな意味でこの半年間は水谷にとって濃密な時間だったのではないか。
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前回の全日本(選手権)は覚えてないですね。全日本が終わった後の半年ですか? 今までで時間が経つのが一番早かった。それだけ有意義な時間を過ごすことができた。でも、今までで一番練習量は少ない。量は少ないけど集中できたし、自分のやり方を見つけることができた。
日本は今まで世界でも一、二番の練習量だったと思うけど、実力が伴わない。それはなぜだろうと考えると、やはり(練習の)やり過ぎだと思う。練習の質、練習へ取り組む意識が高ければ、それは練習の量よりもまさる。
ぼく自身、年間何回かは1週間ほど練習を休むことがあるけど、休んだ後にすごく良い結果を残すことがあった。まわりの人は休んでも一日か二日で、その後、強制的に練習をさせられる環境にある。ぼくは休むことで練習に100%以上の力で真剣に取り組むことができるけど、毎日練習することで100の集中力が70、80に落ちていく。自分の中であまり毎日練習し過ぎてはだめだと前から思っていた。
ぼくが全日本で勝ち、モスクワで活躍して自分の実力が上がってきたことで、ある程度自由が利くようになって、言えることも多くなった。宮崎さん(義仁・全日本監督)にも、明治大の高山さん(幸信・監督)にも自分の意見を言えるようになった。
つまり卓球で成長するという目標のために、自分の好きなやり方ができるようになった。とは言っても、ぼくが言うのは休みをお願いする時です。自分にとって練習が多いから、「休みがほしい」と言う。自分の体調は自分しかわからないから、最終的には自己判断です。
今年になって、明らかにまわりよりは練習する時間は少ないけど、誰よりも練習に集中して取り組んでいる自信が絶対的にあるし、だからこそほかの誰よりも疲れる。体力がないとか、やりたくないとかじゃない。それだけ練習に集中しているから本当に一日、二日やっただけで自分の限界にくると感じる。それだけ1回1回の練習で自分を追い込んでいる。
世界のトップってみんなそうなんですよ。ボルでも馬琳でもそんなに練習をやらない。それを同じチームで見てきた。でも練習中は近づけないくらいの高い集中力でやっている。そういう練習は疲労もすごい。
日本にいると明日とかあさってのことを考えてしまう。明日は一日練習があるから体力をとっておこうとか、あさっても練習があるからおさえておこうと考えてしまう。でも今は後先考えず、常に全力で、200%の状態でボールを打つ、そのかわり疲れていたら、明日の練習を休みますと素直に言う。その分、みんなが休んでいる時に自分がやることもある。
卓球は個人競技なので、選手は自己管理することが必要で、選手がきついと感じているのにさらに追い込むのは指導者側に問題がある。
今は家にトレーニング器具を置いているので、ほぼ毎日トレーニングはやっています。人に言われなくても自覚してやっている。人から言われてやるトレーニングよりも、自分から意識してやるトレーニングのほうが、その効果は全然違う。
まわりからは体が変わったねと言われることはあるけど、自分では気づかない。卓球をやっている時でも自分ではわからなくて、相手がそれ(水谷の体力アップ)を感じるのかもしれない。
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