卓球王国 2024年1月22日 発売
バックナンバー 定期購読のお申し込み
今野の眼

松下浩二「選手はモノではない。聖也は選手を終えても輝いてほしい」

左・松下浩二VICTAS社長、右は岸川聖也

 

なぜVICTASが岸川聖也と契約したのか!?

「聖也はVICTASのためではなく、卓球界のため、

社会のために頑張ってほしい」(松下)

 

2002年、松下浩二の後を追うようにドイツに渡った中学3年の岸川聖也(ファースト)。その後、9シーズンをドイツで過ごし、日本の卓球スタイルを変えた男である。

長年、バタフライ(タマス)からサポートを受けてきたが、第一線から退いているにもかかわらず、今年に入り、バタフライとVICTASからオファーを受け、最終的にVICTASを選んだ。

「シンプルに浩二さんが『聖也と一緒に仕事をやりたい』と言ってくれたことがうれしかったですね」。契約を決めたあとに岸川は卓球王国のインタビューにこう答えた。

なぜVICTASは岸川聖也を必要としたのだろう。なぜ松下浩二は岸川という男に声をかけたのだろう。

 

ーー4月1日に岸川聖也選手と契約したことをVICTASが発表しました。なぜ第一線から退いている岸川くんと契約したのでしょう?

松下浩二 聖也がうち(VICTAS)に来るVICTAS側のメリットは大きくて、VICTASの理念である「卓球を通じて社会を明るくしていこう」という考え方に合致していたのです。彼のようにオリンピックや世界選手権で活躍した選手に来てもらえれば、これから開催していく卓球大会、講習会、イベントで彼が来ることで喜んでくれる人もたくさんいます。そういった活動は卓球界を明るくしてくれます。

もうひとつビジネス側のことで言えば、あれだけの実績を持っている選手なのでラバーやラケットの製品作りに関わってもらうことで、卓球愛好者のための製品作りに貢献してもらえると考えています。大きくはこの2つです。つまり社会貢献活動とビジネスで、うちにとっては彼の獲得は大きなメリットを感じるわけです。

 

ーー卓球メーカーの間での選手や指導者のスカウティングというのはよくあります。現役の選手の獲得を争うという話はよく聞くわけですが、ある意味、選手をほぼ終わっている岸川くんに対してタマスとVICTASがオファーする形になりました。異例の展開でしたね。

松下 ぼくは聖也を小さい頃から応援してきたひとりですし、それはタマス・ヨーロッパの今村(大成)さんも同じだと思います。それはメーカーとかは関係ない。頑張ってきた選手は活躍しつづけてほしいと思っています。選手は「モノ」ではないので、「古くなったから変えよう」ということではいけない。もちろんタマスさんがそう思っていたという意味ではありません。

聖也は現役をやめても輝き続けてほしいと思っています。もし彼のような実績のある選手が引退後に、輝きを失うことになったら後輩たちも卓球選手でい続けることに不安を感じてしまうことでしょう。小さい頃から第一線の卓球選手をやってきたゆえに、卓球以外のことではできないこともあるだろうし、その点は周りが環境を作ってあげないといけないと思います。彼ができないことはなんとかこちらで輝き続ける舞台を作ってあげなければいけないと思っています。

 

「聖也は言葉は少ないけれど、

彼は裏切らない人間だし、義理とか

人情というものを持っている人間です。

応援したくなる人間です」(松下)

 

ーー岸川くんは卓球界の後輩でもあるし、一時は松下さんが経営していたマネジメント会社「チーム・マツシタ」にも所属していた選手だったし、二人はメーカーの粋を超えた付き合い方をしていますね。岸川くんも「浩二さんに一緒に仕事をやろうよ」と言われたのが決め手だったと言っています。

松下 うちだったら、やることはたくさんあるし、みんなが喜んでくれることがいろいろできます。ぼくは、かりにタマスさんやニッタクさんから「岸川さん(イベントに)来てください」と言われたら、行けば良いと思っています。卓球界のためになるのであれば行ったほうがいいし、声がかかれば行くべきだと思います。その延長線上に、「日本の社会のための貢献」があるのであればそういう活動をすべきだし、そこまで彼は頑張ってきた選手だから、ぼくと一緒にやれば、社会が喜んでくれることができるので、だから「一緒にやろう」と自然に言えたと思います。

彼としても選手を終えて、同じ卓球でも転換期を迎えている。これからの目標は1位とか、2位とかではないけれども、また新しい夢とか目標を持ち、一緒に叶えていけたらいいですね。

 

ーーそういうことを言ってもらうと岸川もやりがいが出てくるでしょうね。

松下 そうですね。なかなか卓球の現役を終わって食べていくのは厳しいです。ぼく自身はラッキーなほうだと思うけど、そんなに声がかかるわけではない。

 

ーーそれは岸川くんの人間性かな。彼ほど言葉も少なく、自己アピールをしない男もいない。「男は黙って・・・」というタイプの人間だけど、口を開くときには本質的なことを言うし、信頼できる人間でもある。

松下 聖也は言葉は少ないけれど、彼は裏切らない人間だし、義理とか人情というものを持っている人間です。応援したくなる人間です。人から信用される人間ですよ。

元気で頑張って欲しいですね。選手終わって、下向いているのは見たくない。元気でやっているのを見るのが楽しいんですよ。好きな卓球で生かされて、これからも元気に生きてほしいと思います。

これからは楽しみしかないですね。聖也に関しては小さいことは考えていない。もちろんうちの営業マンは売上のために彼をどう活用しようかと考えると思うけど、ぼくはもちろんそれもあるけど、そこだけではない。卓球界、そして日本の社会のために彼に頑張って欲しいと思っています。

<聞き手:今野昇(卓球王国発行人)>

 

↓関連記事

岸川聖也「悩んだ末にVICTASを選んだ。でもバタフライには感謝の言葉しかない」

関連する記事