<卓球王国2007年4月号より>
Penholder Never Dies.
Vol.4
シェークに勝つためのノウハウを高島規郎が伝授。
ペンホルダーにはもともと「バックは止めて、フォアで打て」という考えがあった。中国にも「右打ち左押し」(フォアで打ち、バックで押す)というプレーの考え方があった。しかし、70年代後半から中国では「フォアで打つだけでは、ペンホルダーはシェークに勝てない」というように考え方を変えて、その後、裏面打法の開発につなげていった。
中国はそれ以前の60年代、荘則棟(61、63、65年世界選手権優勝)が出現。彼はひじをローリングさせるようなバックハンドを使って、世界の頂点に立った。日本でも小野誠治選手(79年世界選手権優勝)もバックハンドは振れたし、その前には高橋浩選手(日本代表として荘則棟に3勝1敗)、河野満選手(77年世界選手権優勝)もバックハンドを振って、世界で活躍したり、世界の頂点に立った。つまり、これらの選手はバックは止めるだけでなく、「バックハンドを振って、両ハンド攻撃をする」という思想を持っていた選手たちである。
一方、ペンホルダーのバックハンドショートでもいろいろなバリエーションがあっていい。日本のペンホルダーのバックショートというのは親指を軽く曲げながら、ラケット面から浮かし、裏面の3本の指と人差し指でラケットを支えて、体の正面でボールをとらえ直線的に押し出す。これがショートの基本と言われている。
ところが、このショートでは強いトップスピンに対してラケット面の抑えを効かすのが難しい。なぜなら親指を浮かすとラケット面を前傾させ、かぶせていくことが難しいからだ。ラケット面をかぶせるためには体を前傾させるしかない。前傾させればさせるほど今度は腕を前に伸ばすことが難しくなる。
日本でも、ペンホルダー選手がどんどんといなくなってしまったのは、バックハンドの難しさのせいではないだろうか。選手も指導者もバックハンドを容易に振れるシェークハンドに流れていったのだろう。
柳承敏(04年アテネ五輪優勝)や金擇洙(02年アジア競技大会優勝)に代表される韓国のペンホルダー選手は親指を浮かせたショートと、親指をつけたまま前腕とラケットをローリングさせるように振るバックハンドを使う。このバックハンドは相手コートにバウンド後に曲がって伸びていく。これはペンとしては有効なショートだ。
ペンホルダーのキーポイントはバックハンドになる、と言っても過言ではない。ひとつはふつうの親指を浮かせたバックショート、二つ目はローリングのバックハンド、三つ目はスナップで弾くように打球する打法で、親指は浮かせても、つけてもいい。リスト打法といってもいいだろう。
この3つの打法を使い分ける必要がある。それにひじを締めるようなバックハンドとひじをローリングさせるバックハンドがあるので、これらのバックハンドを身につけていけばバックハンドによる攻守のレベルは格段に上がる。
韓国選手はそれほどのバックハンド打法のバリエーションがないけれども、超人的なフットワークでそれをカバーしている。
日本選手はそこまでのフットワークがないので、数種類のバックハンド打法を身につければいい。しかし、これはさほど難しいことではないし、もし身につければシェークハンドのバックハンドにも対応できる。ただ相手の戦型やボールの球質によって使い分ける必要はある。
ループドライブに対してはリスト打法で返し、速いボールに対してはローリングバックハンドを使えばいいし、台から離れて打つ場合は大きなスイングのバックハンドというように、使い分けることが必要だ。
私は「ペン裏面打法不要論者」である。
もし今まで挙げたようなバックハンドのバリエーションがあれば裏面打法を使う必要はないし、ペンで裏面を使いたいのなら、最初からシェークにすればいい。王皓は今のように裏面を使いながら表面も使えるようにすればもっと強くなると私は思っている。今のままならシェークでやっても同じなのだ。
馬琳は同じペンホルダーでありながら裏面も表面も使える。だから安定して大きな大会で優勝にからむのではないだろうか。
ペンホルダーが現代の卓球から消滅しないのは、その強力なフォアハンドがあるからだ。単板、もしくはシェークよりも軽量のペンラケットでもシェークに匹敵か、それ以上の豪打がフォアハンドで打てるからなのだ。それにスマッシュを打つと誰も取れないようなボールが出る。
さらに、日本のペンホルダーはスマッシュが打てなければペンをやる意味はない。日本選手はペンでもシェークでもスマッシュを打てるはず。なぜなら小さい頃に多球練習をした時にスマッシュを必ず打つので、体にスマッシュ感覚が染みついているのだ。
日本選手はどう鍛えても背筋力250kgというような体にはならない。日本の代表選手でも以前は130kgくらいだった。中国選手とか韓国選手とは違う。背筋力を要するドライブ打法に頼りすぎては日本人としての民族的特性が生かされないのではないか。
日本選手はパワーとかスピードを追求しすぎてはいけない。勝負すべきは、技術力、つまりテクニック、戦術、それにコートまわりの速さだ。たとえば反復横跳びさせると日本人はどの民族よりも速い。20秒間で50、60回というのは相当に速いけれど、以前、測定した時に日本の卓球選手で70回を超える選手が代表クラスにいた。
筋力、背筋力で勝負するような卓球ではヨーロッパや韓国選手に力負けをするだろう。小野誠治選手は筋力はさほどでもないが、身長が高く、巧緻性に長けていた。河野満選手もパワーではなく、抜群のテクニック、それにバックハンドのバリエーション、そして台上プレーのうまさがあった。相手ボールのパワーを真正面から受けるのではなく、まず相手のパワーを封じてからラリー展開ができた。
ペンホルダーはシェークよりも、台上で先手を取れる。
なぜならば、ペンは体の前でラケットが自在に動く。だから細かい変化をつけられるし、台上で先手攻撃がしやすい。箸を使う民族としての特性を生かすべきだ。
ヨーロッパ、中国、韓国の選手などはパワー志向の卓球をやっているが、日本選手が見習って、そこに追従しても彼らには勝てない。日本選手の技術力、コートまわりの速さを生かしていけば、ペンでもシェークでも世界で勝てるはずだ。もちろん世界で戦うための最低限の筋力は必要だし、その体を作りながら、さらに技術を身につけていけばいい。
指導者も、子どもたちに単純に教えて、選手がコツをつかんだら、あとはその選手の感性で伸ばしていけばいい。日本には素晴らしい素質の選手はいるが、その素質を伸ばす指導者がいないことが問題なのだ。
中国はトップダウン方式の育成法なので、現在の国家チームのやり方が末端まで行き渡る。そういう中で競争をさせて、競争に勝ったエリートが上、つまり省クラスの代表チームや国家チームに行く。そうすると練習法、スイングなどもみんなが同じ打ち方、同じ特性、そして同じ弱点を持つことになる。そこを破るのは日本選手の技術力、コートまわりの速さ、創造性ではないか。
中国が卓球のすべてで、最高峰で、絶対で、それを見習わないといけないと思ったら、日本は永久に中国には追いつかない。
日本独自の卓球スタイル、ペンホルダーも中国や韓国だけの真似ではなく、日本独自のペンホルダーを創り出していけば、必ずや世界で勝てると断言できる。
高島規郎●たかしまのりお
大阪府出身。72、78、79年全日本チャンピオン・75年世界3位・元全日本監督。守備範囲の広い華麗なカットと鋭い攻撃で「ミスター・カットマン」の異名をとった。現役引退後は全日本チームの監督を務めた。また同じカットマンの松下浩二を指導している。卓球理論家として『卓球 戦術ノート』(卓球王国刊)なども執筆
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