1月の全日本選手権大会の男子シングルスで森薗政崇(BOBSON)を大激戦の末に破り、初優勝を果たした及川瑞基(木下グループ)。今まではどちらかと言えば、地味な存在で、23歳ながら世界選手権への出場経験もない。
ところが全日本では優勝候補のひとり、張本智和(木下グループ)に快勝し、勢いに乗った。「張本に勝ってすごいね、というようなメールが150件くらいあったんですが、『明日も準決勝、決勝があるんだから』となるべくメールを見ないようにしました」(及川)。
決勝という大舞台でも、まるで何度も経験している選手のように落ち着いて見えたのだが、実は違っていた。「試合前に乱打して1ゲーム目が始まったら、無観客なのにダブルスの決勝では味わったことのない異様な雰囲気が襲ってきました。その雰囲気に身体が反応してしまって、足が止まってしまい、手先の感覚もおかしくなりました」
2ゲーム目の後半から本来の自分自身を取り戻したという及川。優勝した瞬間も静かに右手の指を天に向け、勝利を噛み締めた。「ぼくはたまにガッツポーズを入れるだけで十分です。ガッツポーズや声を出すことにエネルギーを使いすぎると、頭が回らずに冷静にできないんですよ」。
新型コロナによって、大会を棄権する選手が出て、会場でも換気のために室温が低くなり、ボールが飛ばない、床が滑る、声は出せない、などのタフな環境での大会となった。そういう「いつもと違う全日本」に適応したのが及川だった。
及川は中学3年からドイツに卓球留学。「試合でも奇声を上げる相手がいたり、車で何時間も移動したり、相手の戦術や試合する環境もいろいろある。日本では経験できないような、体育館がすごく寒かったり、床が滑り過ぎて試合にならない会場がたくさんあったりとか、相当にメンタルを鍛えられたと思います」(及川)。
ドイツで7シーズンを過ごした及川にとって「全日本ごときの環境変化」は苦にもならなかったのだろう。
「優勝して思うのは、これでやっと世界に向けてのステップを踏んだということ。これで満足していてはいけない」
武者修行によるタフなメンタルを身につけた及川瑞基は、卓球王国最新号で8ページに渡って、思いを語った。ドイツ語、英語、中国語を操る「クレバーな卓球選手」の「チャンピオン・インタビュー」をぜひ堪能してほしい。
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