いつも「ミスター2位・3位」だった馬龍。
恵まれた身体能力と真面目な性格。
しかしその優しい性格ゆに優勝と縁がないとも言われた無冠の帝王は、
2015年世界選手権蘇州大会で優勝すると、
眠れる獅子は優勝に目覚めた。
このインタビューは、その2015年に神戸のジャパンオープンの会場で行ったインタビューである。
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<卓球王国2015年9月号より>
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類い希な身体能力と打球センスを持ちながら
その「心の優しさ」ゆえにビッグタイトルを逃してきた馬龍。
3年前のロンドン五輪ではシングルスの金メダル候補と目されながらも
エントリーではシングルス枠から外された。
失意の時を経て、経験と自信を積み重ねて世界の頂点に立った馬龍。
これが、王者の独白だ。
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インタビュー=今野昇
写真=江藤義典&アン・ソンホ
今回の優勝で努力したことが報われたし、
結果としては自分の夢が実現したことに
非常に満足しています
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その日、王者・馬龍を待っていた。
ジャパンオープンの初日、記者会見場を借りて、撮影セットを組む。朝から馬龍の登場を待ち続けた。午後の練習が終わり次第、撮影とインタビューを行うという段取りだ。
用意したお土産は彼の趣味であるヒーロー物のフィギュアだ。そしてひと汗流したチャンピオンが登場。お土産を渡して、心を和ませた後におもむろに「いっそのこと、上半身裸で撮ろうか」と提案すると、両手を大きく振って「ダメ、絶対ダメ」と断られた。蘇州での世界選手権の後は、身体が絞り込まれていないという理由だ。しかし、撮影や取材への対応では、馬龍の人の良さがにじみ出ていた。
こちらの質問にも一生懸命答えてくれる。そこには王者の奢りはなく、謙虚な好青年の姿があった。
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●――18歳で世界選手権に初めて出場し、26歳で世界の頂点に立ちました。改めて世界選手権蘇州大会の優勝の感想は?
馬龍 この8年間、ぼくにとってはとても長い8年間でその中でいろいろな経験をしました。苦しみもあり楽しみもあり、落ち込んだことも確かにありました。大変なことがあったけど、今回の優勝で努力したことが報われたし、結果としては自分の夢が実現したことに非常に満足しています。
●――今回の優勝は遅すぎたのかな。その過程でいろいろな喜びや悔しさがあったと想像しますが。
馬龍 確かに若い時は世界チャンピオンになることが目標でしたが、自分が成長していくにつれて、世界チャンピオンになることが簡単ではないことを理解していきました。若い時に優勝することは良い面もあると思いますが、いろいろな経験をして学んだ末に結果が出た。チャンピオンになったことは自分自身にとっても深い意味があると思うし、満足しています。
いろいろなことがあったのは事実です。12年のロンドン五輪後、13年世界選手権でも優勝候補だったのに3位に終わった。ああいう結果になって、自分でも反省したけれども、14年の世界卓球東京大会ではエースとして自分の力を発揮できた。東京大会で技術だけでなく精神面でも自信を持つことができ、自分を信じれば良い結果がついてくることがわかったんです。
●――今回の優勝までの過程で、ポイントになった試合や局面はありますか?
馬龍 2回戦のルベッソン(フランス)との試合。ゲームカウント2︱0から2︱1になり、4ゲーム目の5︱8でリードされた時に一瞬動揺したというか、前の試合で簡単に勝っていたので、しっかりとした心の準備ができていなかった。
あとはカットマンが二人(ギオニス、朱世爀)続いた。肩にも負担がかかるし、特に朱世爀(韓国)は今までも厳しい試合をしてきている相手で、その後の試合のことも考えなければいけない。彼との試合が今回ドロー(組み合わせ)を見た時にまず頭に浮かびました。
●――試合後に劉国梁監督に長い時間アドバイスを受けていましたね。
馬龍 朱世爀との試合は今までも競る試合が多くて、劉国梁監督からもアドバイスを受けたけど、自分のリズムをつかんで、調整しながら自分のペースで試合ができたのが結果につながりました。
●――「今までの馬龍」になくて、「蘇州の馬龍」にあったものは何ですか。
馬龍 いろいろな経験をしたことによって自分自身が精神的に成長したと思っています。10年の世界選手権モスクワ大会の後にどん底に落ちたけど、這い上がってきた。どん底に落ちてもあきらめなかったことが今回の結果につながった。それに、世界選手権で3大会連続、準決勝で王皓に負けた。中国代表は誰でも自分がチャンピオンになりたいと思っているけど、同じ選手に3大会連続で負けた。そういうさまざまな苦しさも経験してきた。
●――今回の世界選手権がラストチャンスになるかも、という重圧はありましたか?
馬龍 非常に大きなプレッシャーがかかっていて、ナーバスになっている面は確かにありました。ただ、今までと比べても、多くの経験をしたことで精神面での調整もうまくできた。いろいろな人が応援してくれていたので、ラストチャンスというよりも、まず結果を出さなければいけないし、勝たなければいけない大会だった。合宿中でも、蘇州に入ってからも自分の空間を作って、あまりしゃべらなかったり、コーチとの会話も少なかった。今思えば、かなりのプレッシャーを感じていたんでしょうね。
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