先月、12月のある日、松下浩二氏はこうつぶやいた。
「今まで生きてきて、こんなにしんどいのは初めてです」
Tリーグの松下浩二代表理事 専務理事はさまざまな問題に直面していた。彼の人生の中では、プロ第一号の卓球選手として自ら苦しんで歩いても、道は開けて成功した。ヤマト卓球の社長になった時も、彼が歩けば多くの人が支えてくれた。そして会社の業績もV字回復した。
ところが、Tリーグだけは規模が違いすぎる。卓球界だけの話ではなく、チーム編成で卓球界以外の人との交渉を重ねていくしかない。しかも、誰もが知っているようなトップ企業との交渉なのだ。
彼の個人プレーだけでは立ち向かえない。「チーム・Tリーグ」としてのチームパワーが必要とされているのだが……。
今年の10月(もしくは11月)に開幕を予定しているTリーグのトップリーグ「Tプレミア」。今月の末に男女4チームずつが決定し、発表される予定になっているが、チーム選定において苦慮しているとの情報も漏れ聞こえる。
現時点で、松下浩二氏はチーム編成に奔走しているが、1月末、もしくは2月にでもチームの発表があることを期待しよう。
日本卓球リーグ実業団連盟(日本リーグ)は、Tリーグ加入を先送りしつつ、2021年以降の加入への検討に入った。
「(日本リーグのチームのTリーグ参戦は)妨げないし、日本リーグとしても各チームに募集をかけていくし、個々のチームがTプレミアに出ることは自由です。各チームが判断することです」と昨年9月の卓球王国のインタビューで佐藤真二・日本リーグ専務理事は答えている。
女子では日本リーグからTプレミアに参戦するチームもあると聞いているが、スムーズに移行できるだろうか。
各チームにとって、最大のハードルは1億数千万円とも言われる予算がひとつと、リーグ側が求めているような世界級の登録選手をスカウトできるのかという点だろう。
なぜこれほどTリーグ設立への動きが遅くなってしまったのか。この何年間のTリーグ設立へ向けての動きを振り返ると、見えてくるものがある。
現存する日本リーグへの配慮と、日本リーグとの共存共栄という理想に引きずられたとも言える。結果、前述したように日本リーグからの回答は「2021年以降の加入への検討」だった。
もしもTリーグがスタートし、マスコミも注目し、成功への道を歩むことができるならば、その時に日本リーグは「Tリーグへの加盟」を表明するのだろうか。Tリーグでトップ選手たちが世界レベルで激しく戦う時に、日本リーグの優勝チームはそれをどのような思いで見つめるのだろうか。
サッカーのJリーグやバスケットボールのBリーグは、それが国内最高峰の戦いの場になっている。卓球ではTプレミアと日本リーグとの二重構造が発生してしまうのだろうか。
そのからみ合った「しがらみ」というヒモを解きほぐすような作業をしつつ、大きな絵を描くために松下氏は戦っている。この大きなプロジェクトで必要なのは松下氏の個人プレーではない。実は卓球界全体のチームプレーなのだ。
(卓球王国編集長・今野)
松下浩二氏