日本の卓球界全体は活況を呈している。世界のトップクラスを維持し、いかに中国に勝つのかが大きなテーマになっている。プラス要素だけが見える日本卓球界において「Tプレミア」は苦しみながら進んでいる。
この状況は1993年にスタートしたサッカーのJリーグや、2016年に開幕したバスケットボールのBリーグと比較するとわかりやすい。
サッカーは当時の日本リーグで観客も入らず、ワールドカップには一度も行けないサッカー後進国の日本を何とか変えたいと川淵三郎さん(元Jリーグチェアマン)を中心に、サッカー協会も一致団結した。そして、アジアに誇るプロリーグを作り上げた。
一方、バスケットボールもbjリーグとNBLという二つのリーグが存在して、実質的な分裂状態で国際バスケットボール連盟から国際大会に参加できないという制裁を受けていた。日本代表の実力も世界的には低いものだった。それをサッカーの川淵さんが短期間で統合し、新リーグを作り上げた。
このサッカーとバスケットに共通していたのは、「負の環境」があったことだ。彼らは変えなければ自分たちの競技団体に未来はない、ことを重々承知していた。マイナス要因が多かったからこそ、変えたいという強い意志が働き、変えやすかった。
卓球はどうなのか。
リオ五輪以降、ある種の「卓球ブーム」が訪れている。多くの卓球関係者が今のまま卓球ブームが続いてほしいと思っている。危機感はさほど持っていない。かつてのサッカーやバスケットボールのようにお尻が火がついているわけではない。
つまり、「変えないと未来はない」という競技団体の対極に卓球があり、「変えなくても未来は安泰」と感じている節があるのだ。
しかし、Tリーグの松下浩二代表理事 専務理事は「未来は必ずしも安泰ではありません。今は素晴らしい環境ですが、そんな今だからこそ、この環境を継続していけるよう新リーグを立ち上げるのです」と言う。
スポンサー集め、新規チームとの協議、海外選手への対応に追われている日々も卓球界の未来を思ってのことだ。
現在、卓球界は「正の環境」だが、Tリーグ自体は「本当に大丈夫か!?」といぶかしがられ、チームが確定しないとプロ選手も動きようがない。ヨーロッパのトップ選手はほぼ12月中には翌シーズンのチームも決まる。
そんな「負の環境」の中で彼はもがいている。
いろいろな卓球界のしがらみに縛られ、まさに産みの苦しみのど真ん中でもがいている松下氏。そして、自分の活躍の場を探しながら、じっとTプレミアの進展を待つ日本のトップ選手たち。
日本の卓球愛好者や関係者の人にはこう問いたい。
「5年後の卓球界、10年後の卓球界にとってTリーグはプラスですか、マイナスですか」と。
ほとんどの人は「プラス」と答えるだろう。トップ選手の活躍の場、セカンドキャリアの場が作られ、彼らの試合を定期的に見ることができ、さらに卓球がマスコミに取り上げられる。
ところが、残念ながら、卓球界が一致団結してTリーグを推進しているようには見えない。
「Tリーグが日本の将来にとってプラスですか?」という問いに、「卓球界にとってプラス」と答えるならば、卓球界の人たちはTリーグをポジティブにとらえて、松下氏の背中を押してほしいと切に願う。
彼を「孤高の代表理事」にしてはいけない。
(今野)
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