<卓球ファンが見たいのは実は男子の卓球!?>
10月24日に男子、25日に女子が東京の両国国技館で開幕する卓球のTリーグ。プロリーグと企業チームが混在すること、男女揃ってスタートすることも、JリーグやBリーグとは違う。
24日の男子開幕戦のチケットは売れているという情報が入ってきた。水谷隼、張本智和を擁する木下マイスター東京と、対するは世界ランク9位の香港の黄鎮廷、韓国の鄭栄植、ポルトガルのアポロニア、そして五輪メダリストの吉村真晴のいるT.T彩たま。激しい試合になるのは必至だ。卓球ファンなら見逃せない対戦と言えるだろう。
一方、25日は女子のTOP名古屋対日本生命レッドエルフの試合。名古屋はワールドカップで石川佳純に勝った鄭怡静(チャイニーズタイペイ)、元ヨーロッパチャンピオンのサマラ(ルーマニア)、韓国の徐孝元という海外勢を中心にしたチームで、日本生命は平野美宇、早田ひな、陳思羽(チャイニーズタイペイ)がいる。
ここの試合も卓球ファンからすれば、なかなかのメンバーが揃ったカードだが、チケットはまだ余裕があるらしい。
卓球ファンの観戦意欲というのはテレビの視聴者のそれとは違う。今回のTリーグのように、男子と女子の試合が別々に行われ、同じ値段のチケットが販売されるというのは、実は日本の卓球界では過去に例がない。
全日本選手権、ジャパンオープン、アジアカップなどは男女一緒にプレーを行う大会で、最近は卓球の国内のビッグゲームでは会場はほぼ満員の観客が入るようになっていたが、その観客が男子の試合を見に来たのか、女子の試合を見に来たのかを分析できないでいた。
しかし、Tリーグの観戦チケットの売れ方でわかったのは、コアな卓球ファンは男子の試合を見に行きたいらしい。
男子の試合には、男子の卓球ファンも女子の卓球ファンも観に行く。ところが、女子の試合は男子の卓球ファンはあまり興味を示さない。これはヨーロッパでも同じで、最も盛んなドイツのブンデスリーガでも、プロとして成り立っているのは男子。女子のリーグではお客さんが入らず、トップ選手と言えども生活がギリギリの状態で競技を続けている。
<女子選手にはビジュアルと知名度という付加価値がつけば……>
アジアの女性アスリートの場合、テレビ的には卓球に限らず、パフォーマンスだけではなくビジュアル(見た目)が付加価値として加わり、テレビ局や広告代理店が動く。それで数字(視聴率)が取れるならば、スポンサーを集めやすいという傾向がある。
しかし、卓球競技を生で見ると観客は見た目だけではなく、彼らのパフォーマンスにひきつけられるので、どうしても男子に興味が向いていく。観客は競技そのものの面白さを見ようとするのだが、テレビ関係者とテレビの前の視聴者は、競技と言うよりも選手個人への興味(知名度)が優先されるのかもしれない。
つまり、全体の視聴者の中で卓球ファンなどは一握りに過ぎない。いかに卓球をやったこともない一般視聴者の数字を取りにいくのかを考えれば、ビジュアルと知名度を兼ね揃えた女子の試合を放送するということになる。
今回の開幕戦でも、男子はBSテレ東での中継になり、女子が地上波のテレビ東京になったのは、その典型だろう。以前から卓球のテレビ放映は女性上位であり、数字を取れる。しかし、リオ五輪では男子団体や水谷隼の試合は相当に高い視聴率を取り、「男子の卓球は面白い」となったはずだったが、「卓球の視聴率は女子」という固定観念は崩せないでいる。
サッカーでもバスケットボールでもプロとして成り立ち、注目されるのは男子だ。いずれ卓球に対してのマスコミや一般の方の関心も、男子により向かっていくだろう。その突破口を作るのは史上最年少の全日本チャンピオンの張本智和かもしれない。
もしくは中国の丁寧などのトップ選手に親衛隊とも言うべき熱狂的なファンがついているように、日本の女子選手にも女性ファンがついてくるかもしれない。実際に、女子ワールドカップでは中国の「石川佳純親衛隊」が名前入りのボードなどを持って応援していた。海を越えて、日本以上に熱いファンが中国には多くいる。Tリーグが始まり、石川の試合に中国から親衛隊が駆けつけるという「インバウンド」現象が起こるかもしれない。
選手の親衛隊が国内からも生まれ、中国からもファンが押し寄せるようになったら、卓球独自のファンが形成されるだろう。
もちろんTリーグの女子も世界最高峰のレベルなので、ラリーの質は高くなるだろう。今からでもチケットを買って観戦してほしいとTリーグ関係者は願っている。
男子卓球に寄っていく卓球ファンと、女子卓球に寄っていくテレビ局側のねじれ現象。その両者の距離は縮まるのか。将来的にイーブンになるのか。もしくは、同じチケット料金では女子のTリーグを見ないという現象が顕著になった時に、テレビはどちらに寄っていくのか。
男女同時に立ち上げたTリーグ構想が崩れて、プロリーグとして走っていく男子と、企業チーム主体の女子のリーグに分かれることもあり得る話だ。
その「別れの時」を回避するためにTリーグは女子卓球ならではの趣向や工夫を模索していくことになる。男女リーグが並行して成功していくことができるならば、本当の意味での世界No.1のリーグになるかもしれない。
(卓球王国編集長・今野)
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