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Tリーグ

Tリーグ松下の決意。「絶対、国技館を満員にしてみせる」

【「卓球新世紀」が始まる。何かと「初」が好きな松下チェアマン】

 いよいよ「卓球新世紀」が始まる。

 明日、Tリーグが開幕する。プロとアマ(企業)の混成リーグだが、もはやそんなカテゴリーなどは関係ない。もともと卓球界ではプロとアマの垣根は意味がないのだから。

 松下浩二チェアマンとは、彼が新リーグを着想した頃からいろいろと話をしてきた。さらにさかのぼれば、彼が明治大学時代に「スウェーデンリーグに行ってみたい」と言い出した時から背中を押してきた。

 卓球の世界で全日本チャンピオンになるような人は「他の人と同じことをしたくない」と考える人が圧倒的に多い。これは個人競技特有のチャンピオン気質なのだ。松下はプロとアマが混在する当時の卓球界で、「プロ第一号」を名乗り、未知なる領域に挑戦し、その後に全日本の頂点に立った。

 さらに日本選手として初めてドイツのブンデスリーガに挑戦をして、現役引退後は卓球メーカーの社長に就任、自分好みのブランドを作り上げていった。何かと「初」が好きな男である。それは全日本選手権で9回優勝している水谷隼にも共通している気質なのだ。

 もともと日本でプロリーグ、とりわけ男子のプロリーグを松下は作りたかったのだが、様々な壁にぶち当たってきた。

 ひとつは日本卓球リーグ(実業団)との共存共栄という課題を日本卓球協会から突きつけられたことだ。松下自身は独立したプロリーグを考えていたのだが、日本卓球協会としては日本リーグと新リーグの間で波風を立てなくなかった。本来、プロと企業スポーツが共存するのは至難のことなのだが、何度も話し合いを持ち、その度に「説明不足」「具体案が見えない」と言われ、遅々として進まないプロジェクトだった。

 昨年12月までに何とか日本リーグのチームを組み込んだリーグを作ろうとしたが、結局は日本リーグからは女子の日本生命のみが参戦するにとどまった。

 二つ目は、女子のリーグの立ち上げだった。ヨーロッパでは卓球の女子のリーグはプロとしての自立は極めて難しい。卓球ファンが観戦するのはもっぱら男子のリーグ。ところが、日本では逆転現象が起こる。

 知名度のある女子選手の試合をテレビは放映するし、ニュースで報道するのが多いのも女子。スポンサーも女子選手に注目するという「女高男低」の現象だ。

 その結果、プロとアマの混成リーグになり、女子と男子のリーグを同時に立ち上げることに落ち着く。

 

記者会見での松下浩二チェアマン


 

【「国技館の開幕戦は本当にお客さんが入るの?」。

「はい、会場はほぼいっぱいです」】

 昨年4月、Tリーグが法人になった後、松下はスポンサー獲得、海外選手獲得などに奔走した。昨年の12月から今年1月にかけて、会うたびに疲労の色が濃くなっていく松下。切羽詰まった様子だった。しかも、松下だけがかけずり回り、彼のパートナー(片腕)の存在が見えず、協会の事業なのに、協会が全面バックアップしている雰囲気も感じなかったのはなぜだろう。

 1月のチーム募集の際に手を差し伸べたのは、明治大卓球部の同期だったT.T彩たまの柏原哲郎社長であり、トップ名古屋の小田悟社長だった。また、開幕直前に幾つかのスポンサーやパートナーが松下の情熱にほだされてサポートすることになった。

 8月に発売を開始したTリーグのチケット。最初の売れ行きは芳しくなかった。今までの卓球の試合のチケットよりもはるかに高額なこともネックになった。これはいずれ修正されるだろう。子どもたちがいつでも観戦できるチケット価格にすべきだ。

 チケットの売れ行きでもネガティブな情報が飛び交う頃、松下は「難しいのはわかっている。でも、絶対、国技館を満員にしてみせる」と静かに語っていた。

 それは批判を浴びながらも自ら突っ走り、開幕にこぎ着けた男の意地だったのかもしれない。2週間前に一緒に車で移動している時も、車中、ずっと松下自ら関係者にチケット購入の打診をしていた。

 明日に開幕を控え、心配で彼にメールをした。「男女の国技館の開幕戦は本当にお客さんが入るの?」。「はい、会場はほぼいっぱいです」と返事が来た。さすがチェアマン。有言実行だった。

 松下は決して器用な男ではない。能弁にTリーグの将来をすらすらと語れる男でもない。彼が持っているのは「世界最高峰のリーグにする」「日本をこのリーグで元気にする」という熱い思いだけだった。

 「年齢を重ねるとともに、卓球界に貢献したい、卓球界をもっと良くしたい、という気持ちが高まってきます。卓球を通して日本を元気にしたいし、日本が世界でNo.1になってほしい、チャンピオンになる日本の卓球を見たいと思ってい

ます」(松下浩二・卓球王国最新号のインタビュー)

 

 卓球ファンにとって、中国を倒して世界の頂点に立つのは悲願である。しかし、未来の卓球界を考えれば、それさえも小さなことにしか過ぎない。世界で優勝することよりも、3歳の子どもから90歳のお年寄りまでが白球を打ち、健康になり、楽しむことができる卓球というスポーツが発展することの意義のほうが大きい。

 全国の小さな町や村にも卓球のクラブができ、みんなが卓球を楽しむことができるのが未来のTリーグの姿ではないだろうか。

 

 松下が経験した開幕に至るまでの険しい道のり。しかし、それは将来作り上げるTリーグのピラミッド構想の土台にたどり着いたに過ぎない。

 石を積み上げる本番はこれからなのだ。 (今野)

開幕戦を控え決意を語る水谷隼(横は邱建新監督)

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